23時55分

今日はネタが思いつかなかったので、本を紹介します。

本多孝好さんの「真夜中の五分前」

本多さんの作品の中で私が一番好きな本です。


この本の中で「かすみ」と「ゆかり」という双子が出てきます。

ただの一卵性双生児ではありません。全く同じ遺伝子を持った双子です。

小説なのでどのくらい正しいのか分かりませんが、

この世で全く同じ遺伝子を持った人が産まれる確率は、

10の240乗分の1なんだそうです。

10の240乗分の1。

人類がクロマニヨン人から今までの歴史を3回繰り返せば一組くらい出てくる可能性がなくもない、という確率だそうです。


そんな双子の片割れがいるって、どんな気分なのでしょうか??

私と完全に同じ顔の人がいるってことは。

入れ替わって遊んだりして。


なんて、軽い小説じゃないんです。

かすみちゃんもゆかりちゃんもすごく悩んでいます。

自分と全く同じ人がいる。じゃあ「私」っていったい何者だろうと。

子供の頃にわざと入れ替わってみたけれど、親すらも気づかない。

自分のやりたいようにやれば相手も同じようなことをやっている。

無理に自分らしくないことをやるときはたいてい相手も自分らしくないことをやっている。

かすみが喫茶店でケーキ1つ選ぶときも考え込むんです。

タルトを食べたいけれど、もしゆかりがここにいたらやっぱりタルトを選ぶんだろうな、

あえてチーズケーキにしよう、でもゆかりがここにいたらやっぱり、

あえてチーズケーキを選ぶんだろうなと。


そんなかすみとゆかりは同じ人、「尾崎さん」を好きになるのですが、

尾崎さんは先に出会ったゆかりと付き合い始めて、婚約します。

このへん、私の想像も含まれるのですが、きっとすごく悩みますよね。

選ばれなかった側は「どうして私じゃ駄目なんだろう」と。

選ばれた側は「君が好きなんだ」と言われても、

じゃあ「私」って何者なんだろうと。

一巻は、そんな感じです。

主人公はこの二人ではなくて、

失恋の傷を抱えた状態のかすみと出会う「僕」です。


二巻でかすみとゆかりは二人で旅行に行き、事故に巻き込まれます。

片方が亡くなり、生き残った片方が病院で目覚めたとき、

自分は「ゆかり」だと言います。

「僕」は恋人を失い、「尾崎さん」は「ゆかり」と結婚生活を始めるのですが、

今度は尾崎さんが悩みます。

ゆかりではなくてかすみかもしれない・・・と。


作品の題名の「真夜中の五分前」

「僕」の昔の恋人は自分の時計をいつも五分遅らせる習慣がありました。

時計を五分ずらすとしたら普通は早めるのに、

どうして彼女は五分遅らせていたのか・・・?

最後までなんだかせつない小説です。